プロジェクトストーリー

日本を支える、「新たな幹」をつくる。

飛騨信濃直流幹線は、国の重要送電設備の指定を受けた第1号プロジェクト。東日本大震災による電力供給不足を考慮して計画された。岐阜県高山市の中部電力飛騨変換所と、長野県東筑摩郡朝日村の新信濃変電所との間を結び、それぞれ交流・直流の変換設備を設けることで、供給電気の周波数の違いを克服。東日本-西日本間で電力を融通し合うことができるライフラインだ。工事の舞台は、長野・岐阜両県にまたがる険しい山岳地帯、標高平均は1,150メートルにもおよぶ。冬季は降雪のため、12~3月までの工事中断を余儀なくされた。

2013年夏。尾形啓輔は、岐阜県高山市の山中にいた。災害にも負けないライフライン・飛騨信濃直流幹線の現場調査のためだ。現場のほとんどが、険しい山間部。マムシや熊に襲われる恐れもある。装備はまるで登山家。熊よけの鈴やポイズンリムーバーなど、対策品も万全で道なき道を分け入った。
「辺りは、何の着手もしていない、木々が生い茂った自然のまま。沢ひとつ尾根ひとつ間違えても遭難する危険性があります。単独行動は厳禁ですね」(尾形)
調査では、工事に必要な資機材運搬工法や拠点となる基地設営箇所の選定など、さまざまな可能性を探っていく。とくに、運搬工法の選定には、数多の要因が絡み合い、鉄塔1基分の方法を決めるだけでも、大きな苦労が伴うのだという。
「コスト・施工・環境への配慮・保安林などの法的規制への対応、さらには地権者の皆様のご意向を踏まえながら、総合的に判断して運搬工法を決定する。何度も、計画の変更・修正が求められので、苦労も大きいです。送電線工事は、人々が暮らす街や自然の中で行われるもの。調整にご協力いただいた、地権者の皆様や行政関係者には、本当に感謝しています」(尾形)
送電線建設は、人と人のつながりで成り立っている。そして、それは工事関係者に限った話ではない。良好なコミュニケーションを図り、絆を育んでいく。そこに、この仕事の醍醐味がある。

調査が完了すると、いよいよ基礎工事。鉄塔の土台となる基礎を構築することになる。ここから、本格的な工事チームが発足し、全国から選りすぐりのメンバーたちが揃う。電気担当の和田裕孝もその一人だ。
「電気担当とはいえ、架線工事はまだまだ先。その間はさまざまな準備と他の工程の施工管理に回ります。岳南建設の施工管理は、たったひとつの専門だけでやっていけるほど甘いものではない。だからこそ、ここでしかできない成長があると思っています」(和田)
基礎工事は「掘削」「鉄筋配筋」「脚材据付け」「生コン打設」の4工程に分かれます。中でも、工程的なリスクが懸念されるのが「掘削」なのだという。
「事前に、地質を調査するボーリング試験を行うのですが、実際に掘ってみると、想定外の地質が出てくることもしばしば。とくに、飛騨地方は北アルプスからの火砕流堆積物に覆われています。『標高によってまったく違う地質が顔を出す』ことは大きな課題でした」(尾形)
ただし、そうした課題を柔軟に解決していけるのが、100年の伝統と信頼を誇る岳南建設である。顧客との綿密な協議を重ね、掘削する長さを変更する、硬軟の差異を考慮した設計に変更するなど、確かな技術力を存分に発揮した。
また、基礎工事において、とくに重要となるのが「脚材据付け」。4つの脚材の位置関係が正確でなければ、上部の鉄塔を組むことができなくなってしまうからだ。
「それぞれの脚材の間隔はおよそ10メートル。その許容誤差は7mmとかなりシビアですので、実に0.07%以内の精度が求められることになります。その精度があって初めて、鉄塔を一番上まで無理なく組むことができるのです」(和田)

基礎工事が完了すると、次は基礎体から上空に向かって鉄塔を組み上げていく鉄塔組立工事がスタートする。さまざまな鉄塔部品を地上である程度まで組み上げた後、クレーンで上空に吊り上げ、鉄塔を組み上げていくのだ。
「部品を上空に運ぶのは、クレーンやウィンチなどの大型機械の力です。けれど、それらを取り付け、組み上げているのは、他でもない、協力会社の作業員の皆さんです。本締めしていない不安定な鉄塔部材を足場にしながら、臆することなく自由自在に動き回る。熟練の技であっという間に鉄塔を組み上げてしまう。地上にいる時と何ら変わらないのですから、驚かされてしまいます。ですが、その技に甘えていてはいけません。安全に、円滑に工事が進んでいくためには、管理者の腕が欠かせない。気温や天候、健康状態にしっかり目を配り、その命を守るための施策を徹底しています」(和田)
変化が著しい現場であればあるほど、現場状況に沿った安全対策がとれるかが重要となる。中には、スピード感を求められるプロジェクトもある。ただし、安全を後回しにすることは許されない。施工を管理することは、命を守ることでもある。
「共に歩み、日本を支える鉄塔をつくる。その過程で、私たちは同志であり、家族のような絆を育んでいきます。仲間と共に、鉄塔から見下ろす景色はいつ見ても素晴らしい。今回の現場である高山市は東に北アルプスが、西には三大霊山の白山がそびえています。そんな山々を同じ高さで、仲間と同じ目線で見つめる。その景色は一見どころか、百見の価値があると思っています」(尾形)

組みあがった鉄塔に、電線を架ける。いよいよ工事は最後のフェーズを迎える。架線工事では、電線を送り出す「ドラム場」、電線を引っ張る「エンジン場」、さらに「中間鉄塔」に作業員や技術員を配置。まずは、ヘリコプターなどを使って、鉄塔間にロープを渡し、そのロープを徐々に太く丈夫なものへと引き替えていき、最終的には電線へと引き替えられる。
架線工事でもっとも重要となるもの。それは、「コミュニケーション」だ。従来は無線機と地上に敷設する有線電話を使用し、最低二系統の連絡体制を確立。しかし有線電話は敷設の手間や関係各所との折衝が必要となり、野生動物により断線のリスクもある。そこで、本プロジェクトでは工事をより効率的にするためのある施策が行われたという。
「wi-fiを使用した同時通話システムを新たに採用しました。その結果、有線電話に必要な手間が省け、人員的にも工程的にも、有効な連絡手段を構築することができました」(和田)
そして、今回の架線工事において、最大の難関となったのが、とある区間での作業。新設する送電線の下に、既設の送電線が存在する区間があり、上空を横断する作業が求められたのだ。万が一、落下物などのミスが生じれば、電気がストップしてしまったり、既設の送電線を傷つけてしまったりすることも考えられる。しかも、その送電線には電気が流れたまま。失敗は絶対に許されなかった。
「そこで立てた対策は、仮鉄塔を組み立て、防護ネットを展開し、既設送電線を防護するというもの。お客様との綿密な打ち合わせを繰り返し行い、強度検討を経て、危なげなく作業を完遂できた時は何とも言えない達成感がありましたね」(和田)

本プロジェクトの竣工は、2021年6月を予定している。東日本大震災での教訓を生かし、有事の際の電力不足を解消する。その国家プロジェクトに参画し、確かな手腕を発揮できることは、彼らにとって確かな誇りになっているようだ。
「この仕事が持つ、使命。そして意義。それらを強く実感することができています。このプロジェクトは、多くの人々から注目される、地域間連携線の第一号。そこを任されていることを意気に感じていますね」(和田)
「私たち技術員は、直接、作業をするわけではありません。けれど、さまざまな立場の人たちを束ね、ひとつの大きな力にすることで、竣工への大きな原動力になっていきます。すべての人がその道のプロであり、こだわりも強い。本当に百人百様で、まとめるのも大変なのですが(笑)。どんなに微細なことでも足取りが揃わないと転んでしまい、それがあっという間に波及してしまう。現場にはそうした怖さがあります。絆の力をひとつにして。この大役を全うしたいものですね」(尾形)

総括技術担当

尾形 啓輔

PROFILE

2010年入社。2013年、事前調査の段階から本プロジェクトに参画。総括技術担当として、工種を問わず、横断的に工事をマネジメントしている。

電気担当

和田 裕孝

PROFILE

2011年入社。2017年の工事開始から、本プロジェクトに参画。主に架線工事の施工計画の立案・作成、施工管理などを担当。他工程の施工管理なども幅広く手掛けている。